5,調布市立図書館の「改革」の取り組みの数々!
“日本一”役立つ・満足できる図書館に!を目指して。
何をもって「日本一」とするかの目標はいろいろ考えられますが、調布市立図書館は、
「市民に役立つ、満足できること」を目標と定め、その実現を目指して頑張ってきました、と小池館長は語っておられました。
私はこれまでに、来館者数で日本一を目指している図書館、市民1人当り貸出し冊数で日本一を大事にしている図書館などを見学させていただいて、それぞれ学ぶところがありましたが、調布市立図書館のこの目標こそ、公共図書館が目指すべきことではないかと感じ、感銘を受けました。
過去には、貸出し冊数を一気に増やすことに集中的に取り組み、数年がかりで100万冊上積みすることに成功したこともあったそうです。
しかし、1点突破ではなく、もっと総合的に役立ち、満足していただくことの大切さに目を向け、以下のようなさまざまな改革に取り組み、今日の調布市立図書館を築いてこられたことを誇りに思っておられ、自信を持っておられることを感じました。
上尾の図書館の改革を考える上で参考にすべき点が多いと考えますが、膨大ですので要点のみ報告させていただきます。
*開館時間の延長
全館午前9時から開館を実現(上尾の分館は10時開館)。
閉館時刻は、中央図書館は、全日午後8時30分まで延長(上尾は午後7時)。
分館は午後5時閉館(上尾の分館も同じ)。
これを実現するためには、正規職員のシフト制勤務の拡大が必要ですので、職員の意識改革が必要だったと考えられます。利用者のニーズに対応するため、指定管理者へ委託した他市の図書館に遅れを取らないためにも、最善を尽くす決意の表明と感じます。
*開館日の拡大、月曜開館/祝日開館。
調布の中央図書館は、毎週月曜日休館から、第4月曜日とその翌日(祝日の代休分)だけ毎月2日休館へと削減(上尾の本館は毎週月曜休館、ただし祝日を除く)。
分館は、毎週月曜日休館(祝日の場合は開館して翌日に休館)。上尾の分館も同様。
*貸出し冊数20冊
1人への1度での貸出し冊数の上限を、全館合計で20冊まで増やしました。
*ブックポスト24時間利用
返却用のポストは、24時間利用可能にしました。
*不要図書リサイクル
寄贈された資料で必要なものは受け入れ、それ以外の資料、及び、図書館として不要となり除籍した資料で有効利用できるものを、リサイクル資料として利用者に差し上げています。平成30年度実績は、寄贈受付数5,088点。リサイクル数28,316点。
*近隣市との相互利用
京王線沿線7市図書館連携事業が平成20年4月からスタート。
他市の市民で登録した人に対して、相互に書架にある図書を貸し出しています。
調布市立図書館に利用登録している他市の市民数は7,485人、年間貸出し点数は32,678点。
調布市民で他の6市の図書館に登録している人は4,697人、他市の図書の年間の利用点数は17,519点。
7市の中で、調布市立図書館の貢献度が突出しています。
*ハンディキャップサービスコーナー増改築
「すべての住民の学習権の保障」「いつでも、どこでも、だれでも利用できる図書館」を目標としている公共図書館として、視力、聴力が不自由な利用者への「音訳サ−ビス」「点訳サービス」「大活字本の提供」「宅配サービス」「子どもたちへの布の絵本・遊具の提供」、ウェブサイトなどを音声で読み上げさせるパソコンや拡大読書器の設置」など、さまざまな対応がなされています。
そのためにハンディキャップサービス係長以下4人の正規職員が配置されていることに驚かされました。
*宅配サービス開始
ハンディキャップを持つ住民だけでなく、高齢化して歩くのが大変とか、病気や出産で入院中などの住民を対象に、平成13年から宅配サービスを開始しました。平成30年度の利用登録者数は202人です。
配達するのは図書宅配協力員(登録している市民ボランティア52人・内分館での登録者が42人)で、最寄りの図書館から配達します。週に2回ほど交代で配達。職員も配達に参加しています。
平成30年度は、年間延1,712回の配達で、合計11,171冊をお届けしています。
*分館職員2人体制
平成元年〜6年の間は、分館の職員は3人体制でしたが、平成7年に中央図書館が「文化会館たづくり」へ移転してからは、中央図書館に厚い体制を作るために、分館の職員体制は1.5人に圧縮しました。
分館の管理職を2館に1人とか3館に1人としていました。
平成10年になって、分館の正規職員を1館2人体制、合計20人に増やし、全館に管理職(係長及び主査)の配置を確立したのは平成16年のことでした。職員の育成が伴うためには、しっかり時間を掛けていることが窺えます。
*司書職採用
調布市では、図書館の職員を採用するに当たって司書の資格を持っている人を司書として採用しています。
市役所の他の部署へ異動しても、司書の資格が役立つ仕事はほとんどありませんので、他部署への異動は基本的にありません。
他の部署からの異動を受け入れることもありません。
図書館の職員は、館長をはじめとして、専門職として、退職するまで図書館で働き続けることになり、図書館で働くことに働きがい、生きがいを持つ職員が多い集団となっています。正規職員でも女性が多数派とのことでした。
小池館長さんが、調布市立図書館の職員たちは、指定管理者にはまねの出来ない仕事をしているとプライドを持っていますと語っておられたことが印象に残りました。
*嘱託員研修制度の充実
調布市立図書館では、正規職員以外に専門嘱託員150人前後が働いています。短時間勤務のパートタイマーではなく、週3日勤務、1日は7時間労働という契約が基本となっています。
従って、この労働での収入だけでは自立した生活は困難であり、女性(主婦)が圧倒的に多いとのことでした。
一般の正規職員と同じような仕事を担っていますので、嘱託員と呼ばれています。
従って、研修制度も充実させ、力を付けてもらうための努力をしています。
*図書費確保
図書資料の充実こそ、図書館にとっては生命線です。
市の財政と図書館費の項で紹介した通り、調布市の図書費は70,293千円で、上尾市の34,653千円の2倍強になっています。
人口数の差は少ないので、市民1人当りの図書費も、調布は約300円、上尾は約150円で2倍の格差があり、蔵書(資料)点数の総数でも、調布は140万点、上尾は60万点弱ですので、2.3倍の格差があります。
地方自治体の財政が厳しくなってきている中で、調布市では、平成26年度から30年度まで、毎年当初予算は6,891万円を維持してきた上に立って、31年度は、消費税率が2%上がる分をカバーするために、7,029万円にアップしてもらう折衝に努力して実現したとのことでした。
*交換便1日2便(午前、午後)
分館10館へ、毎日2便、注文を受けた図書の届けと、返却図書の回収のための交換便のトラックが運行されています。
*電算システム更新(インターネット対応)
電算システムは平成3年度に導入し、以来5年ごとにシステムの入れ替えを行っており、平成28年度のシステム更新で、最新のシステムが導入されているとのことです。
自動化貸出し機は平成16年度から導入されており、分館へも配備済みです。
*分館移転改築(深大寺分館)
分館の老朽化が進んでいるなか、3番目に古かった深大寺分館が耐震検査で不合格となり、近隣に私有地があったことから、新築移転を急ぐことになりました。
複合施設化も検討されましたが、保育園は近くにあるため、図書館単館計画となり、都内では珍しい平屋の図書館が実現することになった恵まれた分館です。現在7年目。
*市報、調布FM放送の活用
調布エフエム放送ラジオ局が文化会館たづくりの3階にありますので、毎週土曜日午後4時40分〜50分に「図書館事業案内」の放送に活用しています。
*利用者懇談会
平成13年から、毎年1〜2回、図書館利用者懇談会を開催しています。
平成30年11月に開催された懇談会の参加者数は19人、内容は、テーマを決めて、図書館について知ってほしいことを説明することや、事業報告・計画の説明、利用者からの質問や要望などですが、議事録をみると参加者からの発言は活発です。
深大寺分館の建替え移転事業の折には、地域の利用者・住民との意見交換会を4回も開催して、出された意見を生かす努力がされています。
*図書館協議会の意見(分館10館維持)
図書館協議会の委員の定数は15人以内となっていますが、現在委嘱されているのは11人。
任期は2年。平成30年度は4回の定例会を開催しています。第1回〜第3回まで3回にわたって「調布市立図書館の今後の在り方」を論議しました。
その中で「気軽に使える身近な図書館=分館10館体制を維持すること」が大切な価値とされたそうです。
*指定管理者制度への対応(直営への条例改正)
旧調布市図書館条例は、設置と名称及び位置しか決めていないシンプルなものでした。(上尾市の図書館設置条例は今も同じです)。
管理・運営などは規則で定めており、その改廃は教育委員会で出来ることになっていました。
調布市では、管理・運営など大事なことは条例で定めることにした方が良いと考え、平成18年に抜本的に条例を改定しました。それによって、図書館は調布市教育委員会が管理すると定められました。
もし、将来、管理を民間などへ委託する場合は、条例を改正しなければならないこと、つまり、市議会の承認が必要な事項となりました。
*調布市立図書館の基本方針及び運営方針
「調布市立図書館の基本方針及び運営方針」については、先に4項で全文を紹介している通りです。
*図書館ボランティア
宅配ボランティアについては、先に紹介した通りですが、それとは別に、館内ボランティアが60人活動しています。一部は宅配と両方で活動している人もいます。
館内ボランティアでは、中央図書館が41人、分館には19人と、中央図書館で活動する人が断然多くなっています。週1回、2時間を原則として、書架整理を中心に、図書の修理、映画資料の整理などの活動をしています。
文字通り、市民が協働する図書館運営が実践されています。図書館を応援したいと考える市民が多くいることの一端が示されていると思われます。
*地域情報化事業
調布市地域情報化基本計画(平成15年度)に基づき、図書館における地域情報化事業として具体化し、地域情報の収集と市民への地域情報の提供に取り組んでいます。
平成17年度から、市民協力員を募集し、職員と一緒に「市民の手によるまちの資料情報館」協力者会を結成して、継続的に情報収集活動を進めています。
集めた情報を整理し、「市民の手によるまちの資料情報館」として図書館のホームページを通じて公開しています。「映画のまち調布」「調布の文学」「調布の石仏・野仏」「調布の交通」「深大寺そば」等、まちのイメージアップに役立っています。
作業の応援のボランティアから一歩進んで、市民協力員は、図書館の活動への市民の参画と言えるレベルと思っています。
2020年03月05日
No 55 調布市立図書館見学報告(第4回)
posted by ひろみ at 22:15| Comment(2)
| 他市の図書館ウオッチング
肝心なのは、直営の良さや指定管理者制度の問題点を踏まえ、加えて上尾の現状を受け止めたうえで、「では、私たちの上尾市の図書館をどうするか」を考え、行動に移していくことだと思います。
それにはまず、市民的な学習会や意見交流の機会が必要だと思います。
その意味で<まちウォッチング>さんが、今後市民的な動きをつくっていくことに期待します。
お力添えをお願い申し上げます。